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柔道を異なる視点から「科学する」― 本学教員2名が日本武道学会で受賞
教員
基礎教育センター 金丸雄介教授/整復医療・トレーナー学科 越田専太郎教授
#スポーツ業界 #表彰 #学会
日本武道学会 第59回大会において、本学の教員2名の研究がそれぞれ評価されました。
基礎教育センターの金丸雄介教授は、「令和7年度 日本武道学会 優秀論文賞」を受賞。
受賞論文は、「柔道競技者の試合前における認知的方略の特徴:競技レベルとの関連」です。
また、整復医療・トレーナー学科の越田専太郎教授は、「優秀発表賞」を受賞しました。
受賞論文は、「柔道受身時の頭部回転運動における熟練度の影響:回転軸と衝撃方向からの検討」
同じ「柔道」を研究対象としながら、金丸教授はスポーツ心理学の視点から試合前の心理的準備を、越田先生は自然科学の視点から受身や頭部の動き、頭部外傷予防を研究しています。
今回は、それぞれの研究内容と、その背景にある思いをご紹介します。
試合前、選手はどのように考えている?― 金丸雄介教授
金丸教授が優秀論文賞を受賞した研究では、柔道競技者1,312名を対象に、
試合前の「認知的方略」、つまり試合に向けてどのように考え、心理的な準備をしているのかを調査しました。
この研究の出発点となったのは、金丸教授自身の長年にわたる柔道日本代表チームでの指導経験です。
競技現場では、自信を持って試合に臨む選手もいれば、不安を抱えながら入念に準備する選手もいます。また、同じような競技レベルの選手であっても、試合前の考え方や心理的な準備の仕方は一様ではありません。
そうした経験から、
「柔道競技者の試合前の考え方には、どのような特徴があるのか」
「競技レベルによって違いはあるのか」
という疑問を持ち、学術的な検証に取り組みました。
「ポジティブなら強い」と単純には言えない
研究では、試合前の認知的方略が4つのタイプに分類されました。
その中には、過去のパフォーマンスを肯定的に捉え、成功を期待しながら計画的に努力する「方略的楽観主義」や、失敗の可能性を想定し、不安を準備に活かす「防衛的悲観主義」などがあります。
分析の結果、全国・国際レベルの競技者では「方略的楽観主義」が相対的に多く、県・地区レベルでは「真の悲観主義」が相対的に多くみられました。
一方、「防衛的悲観主義」は、競技レベルによる明確な偏りは認められませんでしたが、どのレベルでも約35〜40%の競技者にみられました。
つまり、「強い選手は、全員ポジティブに考えている」という単純な結果ではありません。
試合前の心理的な準備には一人ひとり違いがあり、
その特性を理解した上で指導やサポートを考えていく必要があることを示す研究です。
なお、今回の研究で確認された競技レベルとの関連の強さは小さく、一時点での調査であるため、「この考え方をすれば競技力が高くなる」といった因果関係を示したものではありません。
現場の疑問を研究し、再び現場へ
金丸教授が大切にしているのが、「研究と実践の往還」です。
競技・指導現場で生まれた疑問を研究によって検証し、その研究から得られた知見を再び現場へ還元する。
今回の研究も、競技者の心理的な準備の仕方を一律に考えるのではなく、一人ひとりの認知的な特徴を理解し、それぞれに応じたコーチングや心理的支援を考えるための基礎的な知見となります。
左:金丸教授
投げられた瞬間、頭はどう動く?― 越田専太郎教授
越田教授が優秀発表賞を受賞した研究は、
柔道で投げられた場面に着目し、初心者と熟練者では頭部の回転の仕方にどのような違いがあるのかを調べたものです。
「危険か、安全か」だけでは分からないことを調べる
越田教授が柔道における頭部外傷の研究に取り組み始めたのは、2012年頃。
中学校での武道必修化を背景に、柔道における頭部外傷が社会的な課題として注目されたことが、研究を始める一つのきっかけとなりました。
自身も柔道経験者である越田教授は、
「柔道は危険なのか、安全なのか」という二つの選択肢だけで考えるのではなく、
「実際にどの程度の衝撃が頭部に加わっているのか」
「どのような技や場面で起こるのか」
「初心者と熟練者では違いがあるのか」
といったことを具体的に明らかにする必要があると考えました。
当初は実験室内での測定を行っていましたが、
「実際の柔道の場面でも同じことが言えるのか」という課題がありました。
そこで近年は、センサー技術の発展を活用し、マウスガード内にセンサーを組み込むことで、
実際の柔道練習中に頭部がどのように動き、どの程度の加速度が生じているのかを測定する研究へと発展させています。
左から2番目:越田教授
科学は「判断するための材料」をつくる
人は物事を「良い・悪い」「安全・危険」と単純に捉えがちです。
しかし、実際の物事はそれほど単純ではありません。
越田教授は、自然科学の研究者として、現象を測定し、数値として示し、他のものと比較したり、変化を追ったりすることで、
「人が判断するための材料を提供する」ことが科学者の役割の一つだと考えています。
柔道を「危ないからやめる」「安全だから問題ない」と決めるのではなく、
「どのような状況で、何が、どの程度起きているのか」
を一つずつ明らかにしていく。
その積み重ねが、より安全な競技環境や指導方法を考えるための土台になると話します。
異なる専門性から、柔道を研究する
金丸教授と越田教授。
お二人は同じ柔道を対象としていますが、研究分野は異なります。
金丸教授は、スポーツ心理学の立場から競技者の試合前の心理的準備を研究。
越田教授は、自然科学の立場から受身、頭部の動き、頭部外傷予防について研究しています。
同じ競技であっても、見る角度が変われば、研究できることは大きく変わります。
心理、身体の動き、安全性、指導――。
大学では、一つのスポーツについてもさまざまな専門分野から考え、科学的に探究することができます。
研究をさらに次のステージへ
越田教授は今後、現在大学生を中心に行っている研究を、中学生・高校生など、より若い年代へ広げていくことも検討しています。
さらに、柔道だけでなく他のスポーツへの研究展開や、頭部に受ける衝撃と実際の脳振盪・外傷との関係を明らかにする研究にも取り組んでいきたいとしています。
その先には、研究で得られた知見を現場で活用するだけでなく、スポーツにおける安全対策を社会の仕組みや制度へつなげていくという視点もあります。
金丸教授もまた、長年の指導経験と学術研究を結びつけながら、競技者の成長を支えるスポーツ指導やコーチングの発展に貢献していきたいとしています。
競技現場で感じた疑問を、研究する。
研究で分かったことを、再び競技や教育の現場へつなげる。
本学では、教員それぞれが専門性を生かした研究活動に取り組みながら、その知識や経験を学生の学びへとつなげています。



